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助走期間ブログ

現在“助走期間”なフジキの日々を報告いたします。

登録日時: Jun 2009

リファクタリング・ウェットウェア – 脳を再設計する方法

リファクタリング・ウェットウェア ―達人プログラマーの思考法と学習法現在、茂木健一郎の本など、「脳をどう活用するか?」という本がよく出ており、一種の「脳ブーム」。そんな中、コンピューター関連の技術書で有名なオライリーという米国の出版社から「リファクタリング・ウェットウェア」という本が出版された。普通の脳活用本と違うのか?一緒なのか?興味があるところだ。

ちなみに書籍名のリファクタリングとは、プログラムの外部から見た動作を変えずにソースコードの内部構造を整理することを示すプログラミング用語、そしてウェットウェアとは右耳と左耳の間にある、生体情報処理組織…つまり脳を意味する。
筆者は「達人プログラマー」という本の共著者で、アジャイル開発分野などで有名というアンドリュー・ハント氏。ソフトウエア開発現場の視点から、どのようにして自分の脳を開発し、学習や効率化に活用するか?を述べている。

本エントリの内容

  1. ドレイファスモデル ––– 達人と初心者は違う
  2. 脳の2つの動作、LモードとRモードをうまく同期させる
  3. 脳のデバッグ
  4. まとめ

1. ドレイファスモデル ––– 達人と初心者は違う

同書でまず最初に紹介されているのが、ドレイファスモデル ––– ある分野が初心者から達人に移行するに従って単に能力が違うというだけではなく、認識の違い、取り組み方、メンタルモデルや学習方法にも変化があらわれるといい、初心者、中級者、上級者、熟練者、達人の5段階において異なった仕事の仕方を求めることが必要と説く。このモデルはパイロット分野で調査され、特に看護師の能力開発に応用されて成果をあげたそうで、実際ググると看護師養成カリキュラムなどが多くヒットする。

ドレイファスモデルでは、初心者にとってはマニュアルやレシピ、ディシジョンツリーなどミクロに関する情報が非常に有用であるのに対して、上級に至るほどマニュアルに無いことの問題解決能力・全体を見る力が備わってくる。さらに最上級の達人になると直感が働き、理論的に説明できなくても「何かがおかしい」などと感じられるようになる…という域になるとのこと。

逆に熟練者、達人に対してマニュアルを強制することにより、パフォーマンスを著しく下げる ––– せいぜい中級者程度まで落とすことになるという。達人の勘=非言語的能力をすべて制限することが理由とか。メンバーの能力総和よりチーム全体の能力が低くなる現象など、よく聞く組織問題の1つの側面かもしれない。また、自分が未熟なことに対して無自覚 ––– つまり初心者級なのに上級者だと勝手に自覚しているなど、要は「自分が無知であること」を分かっていないという状況を同書では「二次無能力」と呼び、相当に意識のバイアスが入ってしまう点にも注意を呼びかけている。

2. 脳の2つの動作、LモードとRモードをうまく同期させる

達人になるに従って出てくる、なんとなくココがおかしい…などの勘、どこからかわき出てくるアイデア、そういったものの源泉は?どう強化すればいい? そうした件について同書では脳のLモードとRモードという仕組みモデルを提示する。
LモードはLinear…論理的処理、言語処理を行うモードであり、RはRichの略で非線形、非言語、空間認識、パターン認識などの処理を行う。両者は同時に意識化されず、1つが優勢ならもう1つがバックグラウンドに隠れるとか。そして達人の非言語的能力はRモードに由来するという。

このあたりになると若干「非科学的」、「オカルトちっく」な匂いがしてくるかもしれない。よく言われてきた右脳思考方法だったり、潜在意識領域の利用方法などという事になる。
一方で間違いなく、仕事の勘やうまく言葉で説明できない感覚、なんとなく閃いたアイデアといったものは存在する。これをどうやって活用するのか? MBAなどでも紹介されているモーニングノート(朝起きたてのLモードが非活発な時に自分の考えを書く)ことや、散歩・迷路散策などでLモードを抑えRモードを活発化する具体的な手法を提示してくれている。

尚、同書の紹介方法の特徴は、Rモード万歳!潜在意識のみを徹底活用!という事ではなく、いかにしてRモードで手に入れた非言語情報をLモードに落とし込み、最終的に活用できるカタチするか?という事が大事だそうだ。L、Rどちらかのモードではダメ、2つの要素を同期する事がポイント。ただしLモード利用が現実的に理解を得やすいのに対し、Rモード活用への理解が進んでいないためRモードに関する説明が先行するという。いずれにしても、このLモード・Rモードに関する説明が本書のキーポイントだろう。

3. 脳のデバッグ

一方、脳にはどうしてもバグというか、トラブルの元となるいくつかのバイアスがあると言い、これをどう回避するか?これにどう対応するか?がもう1つの課題だと述べている。

認知バイアスにより、自分に都合良く解釈するなど、実際のこととは違うカタチで認識してしまう…事実を歪んで見てしまう事。世代間による気質の違いによる潜在的なバイアスも無視できない点だと指摘している。

さらに興味深かった点としてはトカゲの論理…つまり人間の脳の奥には爬虫類脳というような生存のための脳があり、その部分が逆に人間活動に悪影響を与える ––– 具体的には支配欲、縄張り、威嚇など宜しくない行動のベースになっている事を紹介している。(同様の記述は全脳思考にもあった) 同書ではこうした脳のバグという面を十分に認識した上で前述のRモードを活用するようにと言っている。

4. まとめ

このように「リファクタリング・ウェットウェア」は一線級のエンジニアが書いたというちょっと特殊な脳に関する本。ドレイファスモデルによる達人の説明の切り口は斬新な点があったが、他の部分では様々な経営・企画に関するビジネス書、デザインや発想の本などで出てくる「発想/言葉にできない感覚をどう捕まえればよいか?」という点と似ている事柄も少なくない。

それでも私がこの本を気に入って紹介する理由として、論理性が重視されるとはいえ、エンジニア自身がパワフルになるためにはやはり発想・創造性が非常に求められる点をあらためて強調した事、そして本書も含め様々な分野からRモードとか潜在意識など一見怪しげな話が最近出てくるのは、そこに何か共時性・可能性があるせいかもしれないな…とも思っている。もしかすると、後数年後には「潜在意識、非言語情報は活用して当たり前でしょ!」という状況に切り替わっていくのかもしれない。
また、この類の本をあまり読んだことのないエンジニアなどの方々にとっては、エンジニア視点から書かれているので、読みやすいという効能もあると思う。